『死喰(しくい)』
その存在を知った日から、俺たち兄妹の生活は一変した。
特別幸福だったわけではないけれど、
それでも平凡に平和な日常を送っていたはずだった。
あの日の晩も、好物のハンバーグの材料を買って、
妹のひーなと二人で、のんびり帰り道を歩いていたはずだ。
うちの玄関先にうずくまる、異様なシルエットが見えてくるまでは――
タコのようなその生物は、唐突に膨れ上がって、俺たち兄妹を圧倒的な力で吹き飛ばした。
俺はパニックになる中、ひーなを必死に抱きかかえながら、『死ぬ』ということだけははっきりと理解できた。
「それ以上はやめておきなさい!」
そのとき、ヒーローもののお約束のように、誰かの声が聞こえた。
でも現れたのは頼れる謎のヒーローではなく、クラスメートの愛原希で、
これじゃあ犠牲が増えるだけだと、俺は愛原を庇うように前に立って――
「本当に手伝ってくれるの?
よし、その気持ちでオッケー! 動かないでいて!」
「えっ、おおおおお!!??」
俺の体が溶けて、どこかに吸い込まれていく感覚――
「(何だコレ!? 結局俺は死んじゃうのか!?)」
そして気がつくと、俺は愛原と合体して、タコの化け物を撃退していた。
「っしゃあああっ! 星乙女は! 勝つ!」
ガッツポーズを取る、魔女っこアニメのような衣装になっている合体愛原。
平凡だった日常が、終わった瞬間だった。